東京都、生成AIをどう利用?

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東京都、生成AIをどう利用? 最大の効果は「時短」ではなく……
8月から文章生成AIの全局導入を始めた東京都は、生成AIのメリットについて「単純な業務時間の短縮効果にとどまらない」とする。導入から約3カ月。東京都が生成AI活用を通じて得た「時短効果」以上の手応えとは――。

目次

生成AIの回答精度を上げるプロンプトのコツ

 「あなたは東京都のデジタルサービス局でDXアワードの企画を担当しています」……(1)

 「各局のベストプラクティスを共有し、優れた取り組みを称え、DXへの挑戦を後押ししたいと考えています」……(2)

 「DXの業績で優れた部門に授与する賞について、アイデアを3つまとめてください」……(3)

 これは、都が8月に策定・公表した「文章生成AI利活用ガイドライン」に登場する、生成AIによる文章作成に必要なプロンプト(指示文)のコツを紹介したものだ。

(1)利用者側が立場をはっきりさせ、
(2)前提条件となる目的・背景を具体的に指定する。
さらに
(3)生成AIが生み出す回答の出力形式を指定する。
こうしたポイントを押さえることで、生成AIが導く回答の質を高めることができる。

 都政の業務で生かせるプロンプトのコツとしてまとめているが、一般のビジネスパーソンにとっても参考になる内容だ。

プロンプトの都庁版テンプレート(東京都「文章生成AI利活用ガイドライン」より)

プロンプトの都庁版テンプレート(東京都「文章生成AI利活用ガイドライン」より)

 都は8月23日から、全局で約5万人がChatGPTを利用できる環境を整備している。導入には米Microsoftのサービス「Azure OpenAI Service」を活用した。

 導入の検討を始めたのは2月。DX推進に向け日本マイクロソフトと連携協定を結んだのがきっかけだ。「新しい技術のため、当初は何がリスクで何に注意すべきか分からない状態だった」と都デジタルサービス局の大迫未佳さんは振り返る。

プロンプトを重ねることで生成A

さらにプロンプトを重ねることで生成AIの回答をブラッシュアップする方法も解説している

 闇雲に導入を急ぐのではなく、まずは生成AIのリスクを明確にし、利用に向けたルールを作ることが先決だと考えた。4月、デジタルサービス局内で部署横断の検討プロジェクトチーム(以下、PT)を立ち上げた。企画担当、基盤担当、セキュリティ担当など、さまざまなスキルや専門分野を持つ約10人が集い、安全で効率的なAI活用に向けて議論をスタートさせた。

東京都はどんな使い方をしているのか

 ガイドラインの策定において、PTが意識したのは「べからず集」ではなく、前向きなルールを作ることだった。行政が作るルールといえば、禁止事項を網羅した堅いイメージが思い浮かぶが、「それでは職員の利用が進まないのではないか」とPTのメンバーは考えた。

 リスクを押さえつつも、ルールに沿って、積極的に生成AIを利用するためのガイドラインを作る、という目的を共有した上で議論を進めていった。完成したガイドラインでは、シンプルに「職員が守るべきルール」として4項目を提示した。

職員が守るべきルー

ガイドラインで示した「職員が守るべきルール」

 形式やデザインにもこだわった。行政文書はWordを用いた縦長の資料が多いが、ガイドラインはPowerPointを用いて、横長の体裁に仕上げた。「デジタルサービス局では横向きを好む職員が多く、印刷もしないため横向きの方が見やすい」(大迫さん)

 職員向けのガイドラインではあるが、都民にとっても分かりやすい内容となることを心がけた。「職員が安全な利用を進めていることが分かれば、都民にも安心してもらえる」(大迫さん)

 PTは、生成AIをどういう業務に使えるか? という観点で職員とアイデアを共有する「アイデアソン」も複数回にわたり実施してきた。

「アイデア出しやベストプラクティスを調べるのに使えそう」

 「AIはたまに間違える。間違いを見抜ける仕組み作りが必要」

 6月から生成AIを先行導入してきたデジタルサービス局の職員からは、さまざまな声が挙がった。こうした声をもとに、PTは行政での利用に「向いているもの」と「不向きなもの」を整理。「文書作成の補助」「アイデア出し」「ローコードなどの生成」には向いているが、「検索」「数学的な計算」などには不向きだとガイドラインで提示した。

東京都はどんな使い方をしているのか

行政での利用に「向いているもの」と「不向きなもの」を整理した

 8月の全局導入から約3カ月。現在、日常的に業務で生成AIを利用している職員は約1割。用途は文章作成、校正、要約、アイデア出しが大半を占めているという。独自の用途を試みる職員も出てきているといい、例えば(1)相手に失礼のないようなおわび、おことわりのメール文案を作成する、(2)異動先で引き継いだExcel資料の関数・数式をプロンプトに記入し動作を確認する、(3)送信前のメール文面に誤字脱字がないか確認する――などの例が出てきているという。

「時短効果」よりも大きな手応え

 生成AIを導入した企業や自治体からは、成果として「業務時間の短縮効果」がよく挙がる。都でも利用した職員の約6割が10~30分の時短につながった――という調査データがあるといい、確かに生成AIの時短効果は大きい。

 一方で、大迫さんは、時短効果以外の価値も大きいと指摘する。

業務で生成AIを用いる環境局の職員(東京都デジタルサービス局提供)

業務で生成AIを用いる環境局の職員(東京都デジタルサービス局提供)

 一つは、自分では思いつかない発想やアイデアが得られるという点だ。

 行政職員が扱う公的業務には、マニュアル通りに進めていく必要がある業務も多い。そういった業務にふと疑問を抱いて上司に質問しても、納得のいく回答が得られないこともある。こうした疑問を生成AIに尋ねると、箇条書きで整然と理由を挙げて、明瞭な回答が返ってくる。こうした使い方をした職員からは「自身の業務に納得感を得て進めることができた」と話したという。

 大迫さんが挙げるもう一つの手応えは、職員のITリテラシーの向上だ。今後、既存のさまざまなサービスに生成AIが組み込まれていくことが想定される。代表的なものでは、WordやExcel、PowerPointなどの既存ソフトに導入し、必要な指示を出すことで文書やプレゼン資料などが短時間で作成できるMicrosoftの「Copilot」(コパイロット)などがすでに登場している。

 「いかに明確なプロンプトを書けるかが、今後の業務の進め方に大きく影響してくる」(大迫さん)。今、業務で生成AIに慣れることでITリテラシーを身に付け、それが将来に生かせるのではないか、という期待を持っているという。

とはいえ、全体としてはまだ活用方法は限定的。「プロンプトを工夫してもっと業務に使いこなせるようにしていきたい」と大迫さんは話す。

 そこで、都は11月から約10回にわたるアイデアソンをスタートさせた。行政での活用方法についてアイデアを出し合うほか、プロンプトをブラッシュアップするための方法について、外部講師も招いて学ぶという。年明け以降、アイデアソンの成果として、行政利用に特化したプロンプト集または事例集の作成・公表も予定している。自治体業務における生成AI利用の幅が、これまで以上に広がっていきそうだ。

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